雇用統計73,000人の衝撃、そして即座の“クビ”
データは誰のためのものか──市場・FRB・大統領、それぞれの思惑
はじめに:労働統計局長“即時解任”という衝撃──政治と統計の攻防へ
- 2025年8月発表の雇用統計の速報値がわずか+73,000人と発表され、同時に5〜6月分も計▲25.8万人の大幅下方修正が判明(関連記事:ドル円150円──それでも動かないFOMCと日銀の「腹の内」)
- これを受けて、トランプ大統領が労働統計局長エリカ・マッセンターファー氏を即時解任。解任理由は「数字を不正に上げていた」との非難。
- この動きに対して英ガーディアン紙などが「統計への政治介入」として批判。「統計の信頼性が損なわれる」「政権の都合で数字が操作される危険」との指摘も。
- 一方で、過去の政権(特にバイデン政権下)で繰り返されてきた「速報値→大幅下方修正」の流れに、ようやくメスが入ったという声も。
👉 今回の出来事は、「速報値=作文」の常識に風穴をあけるのか?
それとも、“都合の悪い統計を潰す”という新たな危険性の幕開けなのか?
雇用統計 +73,000人の衝撃──「いきなり半分」の異常
前月7月分のNFP(非農業部門雇用者数)は +73,000人。
これは市場予想(概ね+150,000〜+170,000人)のおよそ半分という数字で、マーケットに衝撃を与えました。
S&P500は前日比▲1.6%、ナスダックは▲2.2%安と、株式市場も明確に反応。
しかし、それ以上に注目されたのは、速報値の“落差”ではなく、「これまでの数値が“かさ増し”されていたのでは?」という疑念でした。
速報値は「作文」、修正値が“現実”か?
ここで押さえておくべきは、雇用統計には「速報値」と「修正値」があるということ。
速報値は発表タイミングを優先するため、サンプル数も少なく、“官製作文”が入り込む余地があります。一方、修正値・確定値は、より多くのデータと精査を経た「現実に近い数字」です。
そして今回「も」修正幅が異常に大きい──
- 5月の雇用統計:+144,000 → +19,000(▲125,000人)の下方修正
- 6月の雇用統計:+147,000 → +14,000(▲133,000人)の下方修正
2ヶ月で合計25.8万人超の下方修正。
これは偶然ではなく、バイデン前政権の頃(2022年春頃)から大幅修正が常習化し始めたように感じます。
この2か月の合計:たった+33,000人。👉 アメリカの労働市場規模(就業者1.5億人以上)を考えると、これは増加ゼロ”と同義です。
① 雇用の“横ばい”は実質マイナスと同じ
- 米経済は月10万人以上の雇用増が「最低限」必要(人口増・新卒などを吸収するため)。
- +2万や+1万は、「必要な人数すら吸収できていない」状態。
→ 実質、景気後退入りのシグナルと見られても不思議じゃない。
② FRBの金利判断を“騙してた”構図になる
- 修正前は「+144k/+147k」で、FRBは「労働市場は底堅い」と判断していた。
- でもそれ自体が“虚像”だったとすれば、過去の政策判断も揺らぐ。
③ マーケット視点:「修正幅>速報値」=統計の信用失墜
- 速報値が+144k → 修正で+19kって…
- 「その数、どこから持ってきたの?」ってレベル。
さらなる問題として、今回の速報値+73,000人という数値も、「修正で落とされる分をあらかじめ引いて出したのでは?」という推測すら浮上しています。
“速報値の責任者”にメス──トランプ政権の動き
こうした中、トランプ政権は即座に動きました。
7月雇用統計の発表直後、労働統計局長エリカ・マッセンターファー氏を解任。
トランプ大統領は「不正に数字を上げていた」と明言し、政権は “統計の捏造”を強く疑っていた ことがうかがえます。
英・ガーディアン紙など一部メディアは「政治介入だ」と批判しましたが、ふかちん&GP君の視点は少し違います。
📌 「統計が歪められ、市場が踊らされていた」のなら、それを正すことは“介入”ではなく“是正”では?
今回の速報値は、たしかに“見た目は弱い”ですが、むしろ「やっと正直な数字を出したのでは?」という仮説も成り立ちます。
ファンダ派が警戒する「統計の信頼性」──次は何が修正されるのか?
今回の最大の問題は、「たまたま下がった」ではありません。
速報値と修正値の乖離が常態化していること自体が“統計の信頼性”を損なっているのです。
✅ 【参考資料】■ 見た目は“強い”雇用、だが中身は…
7月のNFPは +7.3万人
そして、ふたを開ければ:
- 5月の雇用統計:+144,000 → +19,000(▲125,000人)の大幅下方修正
- 6月の雇用統計:+147,000 → +14,000(▲133,000人)の大幅下方修正
👉 過去分の帳尻合わせが露骨
ふかちんの視点では、“速報値”の信頼性が崩れている=ファンダ分析の前提が揺らいでいるということになります(前々から速報値は疑っていましたが…)
次月以降、「今回の+73,000人」も修正されるのか?
もしこれも下方修正されるなら、米経済は実質的に雇用停滞に突入している可能性があります。
それはインフレが高止まりしつつ、雇用、経済が弱くなる──つまりスタグフレーションの芽が出てきたという疑念に繋がります。
📌【追記】FRBは“利下げモード”に入るのか?
今回の統計ショックにより、マーケットでは「FRBが早期に利下げに踏み切るのでは」という見方が急浮上している。
- 実質的な雇用増は2か月でたった33,000人
- 失業率は4.2%に上昇
- 一方、物価(CPI)はすでにピークアウト
この「インフレ後退+雇用減速」のセットは、FRBにとっては“利下げへの大義名分”となり得ます。
実際、パウエル議長はこれまでも“データ主義”を掲げており、状況次第でスタンスを即座に変える“柔軟派”として知られています。
今月(8月21日~23日)のジャクソンホール、又は その前に発表されるかもしれません。
GP君まとめツッコミ+ふかちんコメント
👓 GP君:「ってことは… 今回の“+73,000人”は、“正直な数字”か、あるいは“盛ったけど控えめ”か──どっちにしろ、“速報値”はもう鵜呑みにできないってことか!」
🧠 ふかちん:「うん。僕らファンダ派が見るのは“修正値”と“構造”。もし今後も修正で大きく落とすなら、“統計の操作”が常態化していたってことになる。
そして、今回の+73,000人が正直な数字 又は、盛られた数字だとすれば、アメリカはすでに“雇用の鈍化”に入っている。
インフレも下がらない中での景気の鈍化──つまり懸念されていた“スタグフレーション”が現実となっている可能性は否定できないね。
どちらにしても、雇用統計の信頼性そのものが揺らいでる。それが一番の問題だよ」
🤖 二人:「“数字”の裏にある“意図”と“異変”、それを読むのが“ふかちん&GP君流の真骨頂”です」
出典先
- The Guardian(2025年8月2日付)
“Trump fires Labor Stats Chief over job data revisions; critics cite political interference” - Bureau of Labor Statistics(BLS)公式サイト
2025年7月および5〜6月雇用統計 修正データ - Bloomberg / CNBC / WSJ 速報データ比較
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