米政府クローズと雇用統計発表中止──高市政権誕生で世界が揺れた週

日本経済

副題:FRB・日銀・為替市場が読む“政治リスクの連鎖”


  1. ■ はじめに:世界の政治リスクが同時多発
  2. ■ 米連邦政府クローズ
    1. 背景(予算審議・与野党内対立)
    2. 経済的影響(短期〜数週間)
    3. 市場影響(Tビル・MMF・ドル需給)
  3. ■ 雇用統計発表中止
    1. 直近トレンド(“雇用は減速、解雇は低位”のミスマッチ)
    2. “データなき市場”の混乱経路
    3. FRBへの影響(“会合ごと”の慎重姿勢がさらに強まる)
  4. ■ 高市早苗新政権誕生
    1. 初の女性首相が視野(象徴と現実)
    2. 政策スタンス(仮説:積極財政×経済安保×成長投資)
    3. 為替・日銀への影響(円安抑制 or 構造改革期待)
    4. 米債券:フロント〜ウィングまで分解して読む
  5. 為替:安全資産フロー vs 金利差・流動性
    1. 株式:ファクター/セクター/地域の三層で観察
  6. クレジット:IG安定・HY選別、プライマリーの“窓”
    1. コモディティ:原油・金に加えて“銅・ガス・穀物”
    2. ボラティリティと相関
  7. ■ 世界市場の反応
      1. 🧭 特別分析枠:シャットダウンの長期化がもたらす“30日の壁”
        1. 米国:シャットダウン 5日間と30日間の違い
        2. FRB:長期化時の“判断喪失”シナリオ
        3. 欧州:米データ空白の副作用
        4. 日本:高市政権との複合効果
        5. 総括:データが止まると“信認”が揺らぐ
    1. 米債券:リスク回避と利回り上昇のせめぎ合い
    2. 為替:ドル売り・円買いの安全資産フロー vs 金利差
    3. 株式:アジア上昇・欧米横ばい
    4. コモディティ:原油・金の方向感
    5. ■ 未来展望(“データ欠落 × 政変”の二重構造)
    6. タイムライン別シナリオ(Shutdown × Data復旧)
    7. FRB
    8. 日銀・日本政府
    9. 投資家の“実務ウォッチリスト”
    10. リスク反対側(もし○○なら、××が起きやすい)
  8. ■ 影響分析
    1. 前提と仮説
    2. 1. 日本経済への影響(内政・市場・セクター)
      1. 1-1. マクロ経路
      2. 1-2. 債券・クレジット・株式
      3. 1-3. セクター詳説(3〜12か月)
    3. 2. 米国への影響(対米関係・市場連動・通商)
      1. 2-1. 政策・安全保障アライメント
      2. 2-2. 米市場への波及
      3. 2-3. 通商・産業(米企業サイド)
    4. 3. 欧州への影響(ECB・国債・クレジット・産業)
      1. 3-1. 政策・対EU関係
      2. 3-2. 市場(債券・クレジット)
      3. 3-3. 産業リンク
    5. 4. グローバル共通
      1. 4-1. サプライチェーン再編
      2. 4-2. エネルギー・GX
      3. 4-3. テク・安全保障
    6. 5. 時間軸シナリオ
      1. 0〜3か月
      2. 3〜12か月
      3. 12〜24か月
    7. 6. 主なリスク/オルタナティブ
      1. 7. まとめ(エグゼクティブ・サマリー)
  9. 四角 まとめ・GP君コメント
  10. 出典
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■ はじめに:世界の政治リスクが同時多発

2025年10月初旬、米国の連邦政府が閉鎖(Government Shutdown)に入り、統計発表の“心臓部”である米労働省・商務省の経済統計が停止。なかでも米雇用統計(Employment Situation)が発表中止となり、市場は“データなき相場”を強いられている。
いっぽう日本では高市早苗・自民党新総裁の誕生で、初の女性首相が視野に入った。米の統計ブランク × 日本の政権転換という二重のイベントが、為替・金利・株式のポジショニングを揺さぶっている。


■ 米連邦政府クローズ

背景(予算審議・与野党内対立)

会計年度の区切り(9/30)までに歳出法が成立せず、政府機能の一部が停止。今回の閉鎖では、政府職員の大規模な一時帰休に加え、統計作成機能や市場監督機能(SEC・CFTC等)が大幅に制限される。CFTCの建玉報告など“市場の視界”を補うデータも遅延し、ボラティリティを増幅しやすい。

経済的影響(短期〜数週間)

  • 成長率押し下げ:閉鎖が長期化すると、政府支出の遅延・不確実性増大で四半期GDPをわずかに下押ししやすい。
  • 発行・需給:国債入札など債務の根幹業務は“エッセンシャル”として継続されるのが通例だが、入札カレンダーの読みづらさは投資家心理の重石になりうる。

市場影響(Tビル・MMF・ドル需給)

  • 超短期ゾーンは需給でタイト化と緩和が交錯。MMF残高は高水準を維持し、Tビルの消化基盤は厚いとの観測。5–6か月物の利回りは利下げ織り込みでわずかに低下する場面も報告される。
  • ドル需給は“安全資産フロー”と“統計ブランクの不安”が綱引き。持ち高調整で上下に振れやすい。

■ 雇用統計発表中止

直近トレンド(“雇用は減速、解雇は低位”のミスマッチ)

政府閉鎖でBLSが停止し、雇用統計が欠落。その代替として、シカゴ連銀ナウキャスト、民間データ(求人件数、オンラインポスティング、ADP等)を組み合わせる“仮置き読み”が広がる。多くのエコノミストは「低採用・低解雇」=“スローだが崩れていない”という評価で、失業率はおおむね横ばい圏という見方が中心になっている。

“データなき市場”の混乱経路

  • 先物・金利:通常ならNFP・失業率・賃金の三点セットでFRBの近未来パスが微修正されるが、今回は民間指標への“過剰反応”と“ヘッドラインニュース”への敏感化が起きやすい。
  • ストーリーのねじれ景気は粘るのか/減速なのかインフレは冷えているのか/粘着なのかで読みが割れ、市場はテクニカルに振れやすい。

FRBへの影響(“会合ごと”の慎重姿勢がさらに強まる)

FRBは9月に0.25%の利下げを開始したばかり。公式統計の空白は「データ依存」の看板に逆風で、臨時・民間データや各地区連銀のサーベイ(ベージュブック等)を従来以上に重視する可能性が高い。利下げテンポは“やや慎重化”し、次の一手は雇用とコアPCEの再可視化待ちになりやすい。


■ 高市早苗新政権誕生

初の女性首相が視野(象徴と現実)

自民党が高市早苗氏を新総裁に選出。連立の議席配分を踏まえ、初の女性首相の誕生が確実視される。象徴的意義は大きいが、市場が見るのは政策の優先順位と実行力

政策スタンス(仮説:積極財政×経済安保×成長投資)

  • 危機対応投資(クライシス・マネジメント):半導体・食料・エネルギー・防衛・安全保障の戦略分野へ機動的に投入
  • 減税・補助のミックス:家計負担の緩和と、企業の国内投資を促す投資促進型の税制
  • サプライチェーン強靭化:対中依存の逓減、日米欧台との補完連携の強化。
    こうした政策パッケージは財政拡張バイアスを伴いやすく、長期金利の上方圧力を意識させる一方で、潜在成長率の底上げを狙う構図になる、と思う。

為替・日銀への影響(円安抑制 or 構造改革期待)

  • 為替:政策不確実性の高い立ち上がり局面では、円の“安全資産”機能金利差が綱引き。メッセージ運営次第で、過度なボラ抑制を志向する展開も。
  • 日銀:独立性を尊重しつつも、ボラ抑制・円滑な正常化に資するコミュニケーション連携を強める余地。
  • 株式:成長投資(半導体・装置・素材・エネルギー・防衛・インフラ)に政策テーマの物色が入りやすい。

米債券:フロント〜ウィングまで分解して読む

  • 超短期(Tビル/MMF)
    • 政府閉鎖中は歳出の遅延と入札スケジュールの読みづらさが同時発生。Tビル利回りの期限別ゆがみ(特定週のカレンダーに反応)が出やすい。
    • MMFの“待避需要”は高止まりしやすく、RRP/TGA/ビル発行の三角関係で超短期金利が時々ピンと立つ場面があると思う。
  • フロントエンド(2年)
    • 本来は政策金利見通し(FF/OIS)に最も敏感だが、統計ブランクにより“日替わりで代替指標に過剰反応”しやすい。
    • 雇用・賃金の方向が見えない間は、コアPCEや週次の新規失業保険に対する反応が増幅しがち。
  • 中長期(5–10–30年)
    • マクロ教科書的には景気下押し=利回り低下(ブル)だが、今回はタームプレミアムの再拡大(不確実性プレミアム)が逆向きに効きうる。
    • 結果として、ブル・スティープ/ベア・スティープ/ミニ・フラットが短期で頻繁に切り替わる“ゆらぎ多め”の相場つきになりやすい。
  • ボラ指標と板厚
    • MOVE指数はイベント日に跳ねやすく、指標カレンダーの空白が続くほど**板の薄さ(マーケットデプス低下)**に弱い値動きになりがち。
  • 想定される典型パターン
    1. 閉鎖が短期で解ける見込み → フロント下げ/長期も同調(小さめのブルフラット)。
    2. 閉鎖が長引き統計復旧も遅延 → “不確実性=タームプレミアム上振れ”で長期が耐える、または長短ともに方向感迷子

為替:安全資産フロー vs 金利差・流動性

  • 安全資産フロー
    • “悪いニュース”→ドル安・円/スイス高の反射は出やすい一方、金利差の残存流動性(ドル資金の厚さ)がドルの下値を限定しやすい。
  • ユーロ・英ポンド
    • 欧州指標が弱いとユーロ上値は重くなりやすい。ただし、ECBの“予備利下げカード”観測が出ると、短期はむしろユーロ高の過熱抑制=為替ボラ抑制に効く時がある。
  • EM通貨
    • ドルのタイトさ後退はEMにプラスだが、外貨債のロール期/政治イベントの重なる国は見切り売りが出やすい。“イベント通過まで戻り売り”→“イベント明けで買い直し”の手順になりやすい。
  • 実務メモ
    • クロス通貨ベーシスが悪化する局面では、ドル調達の“詰まり”が表面化しやすい(短期スパイクに注意)。

株式:ファクター/セクター/地域の三層で観察

  • 米国
    • ガイダンスと可視性が命クオリティ(収益の安定)・大型・ディフェンシブに相対資金が残りやすい一方、小型・ハイベータは流動性の薄さで振れ幅が大きい。
    • ハイテク/半導体ディスカウント率低下の追い風が続くが、在庫・供給網・設備投資の前倒しなど企業固有の材料で選別が強い。
  • 欧州
    • 高配当/公益・ヘルスケアなどディフェンシブに回帰しやすい。化学・産業財は米需要鈍化に敏感。
  • 日本
    • 政策期待(成長投資・経済安保)の“物語性”が装置・素材・インフラ・防衛に資金を引きやすい。
    • 一方で、金利上振れ=ディフェンシブのバリュエーション見直しに繋がる場面も。REITは金利と稼働のクロスで個別勝負。
  • ファクターの並び
    • “統計がない”時ほど、クオリティ>ディフェンシブ>グロース(選別)>バリュー(資源次第)>スモールの順になりやすい、と自分は思う。
  • ポジショニングのノイズ源
    • CTA(トレンドフォロー)のシグナル切り替え/ガンマ(オプション)の位置による反発・失速自社株買いブラックアウト期の板薄化、などテクニカル要因が価格変動を増幅しがち。

クレジット:IG安定・HY選別、プライマリーの“窓”

  • IG(投資適格)
    • ベンチマーク投信・年金・保険のテクニカル需要が安定要因。発行環境は金利・ボラ次第で開閉するが、**“窓が開いたら一気に発行”**の挙動。
  • HY(ハイイールド)
    • 統計ブラインド=信用ストーリー不透明でスプレッドはじり広がりになりやすい。レバレッジ高・短期借換え勢は相対劣化。
  • CLO/レバレッジドローン
    • 金利高止まりの余波でクーポン負担増。担保の質とコベナンツの厳格さで銘柄間の二極化が進みやすい。

コモディティ:原油・金に加えて“銅・ガス・穀物”

  • 原油
    • 需要のマクロ鈍化観測供給(産油国方針・在庫)の見出しで綱引き。タイムスプレッド(バックワーデーション/コンタンゴ)の変化が先読みヒント。
    • 実質金利・ドル・地政学の三変数。統計欠落=不確実性上昇で“買われやすい”。**ゴールドのスキュー(プット/コールの歪み)**が恐怖度合いを映すことがある。
  • 銅(Dr. Copper)
    • 中国の建設・インフラ・電力投資の温度感に敏感。サプライ・ストライキ・港湾ボトルネックのニュースに反応しやすい。
  • 天然ガス(米・欧)
    • 在庫水準・気温見通し・LNG稼働がカギ。欧州は地政学・パイプラインに引きずられやすい。
  • 穀物
    • 天候・輸送・輸出規制のヘッドラインで飛ぶ。マクロとは連れにくいが、物価センチメントには影響しやすい。

ボラティリティと相関

  • 株債相関
    • “インフレ懸念>景気懸念”の局面では株も債も同時安の相関(+)になりがち。リスクパリティや60/40に同方向の逆風が吹きやすい。
  • VIX × MOVE
    • いずれかだけが上がる(分散が効く)局面から、同時に上がるディレバが発動しやすい。VVIX(ボラのボラ)も要監視。

■ 世界市場の反応

🧭 特別分析枠:シャットダウンの長期化がもたらす“30日の壁”

今回の連邦政府クローズは、期間によって世界経済への影響度が大きく異なります。
5日以内で収束すれば“ノイズ”、30日に迫れば“構造変化”となり、金融政策・市場心理・信用コストに連鎖的な波紋を及ぼします。

米国:シャットダウン 5日間と30日間の違い
期間経済指標への影響FRBの判断材料市場の反応信用コスト
5日程度一時的ブランク。週次系データで代替可能FOMCメンバーは「データ欠落」を無視し、現行シナリオ継続債券は短期ブル、株式は小反発小幅上昇で収束
15日月次統計の欠損が出始める。雇用統計・CPIが遅延次会合の指針が曖昧化し、FRBは発言を控えがちボラティリティ上昇、利回りカーブ歪みIG安定、HYスプレッド拡大
30日主要統計2回分が欠落、「政策の羅針盤」を喪失民間データ頼みとなり、政策誤差リスクが高まる株債相関+化、リスクパリティ崩壊信用スプレッド急拡大、ドル調達逼迫
FRB:長期化時の“判断喪失”シナリオ

5日なら「様子見」で済むが、30日になると「情報不足による政策誤差」が発生します。
データが欠けた状態では、民間インデックス(ADP、カード決済、求人統計など)が過剰に影響力を持ち、FRBの意図と市場の反応がズレるリスクが増大します。

欧州:米データ空白の副作用
  • ECB・BoEは米金利の方向を読み違えるリスクが上昇。特に欧州債券市場ではタームプレミアム上振れに脆い。
  • 米系企業の債券発行停止により、一時的に欧州国債へ資金流入。ただし周縁国では流動性が急低下。
  • ユーロ圏HYではOAS(オプション付スプレッド)が拡大し、断片化リスクが再燃。
  • 米国データが止まる間、欧州指標(PMI、IFOなど)がグローバル市場の「代替指標」として注目度を増す。
日本:高市政権との複合効果
  • FRBの方向感が見えない中、日銀は「独自判断」の余地を拡大。
  • 高市新政権が経済再建・安全保障を打ち出せば、国債市場は長期ゾーンで金利上昇圧力。
  • 防衛・DX・エネルギー転換など政策関連株は底堅く推移。
  • ドル調達難による円レパトリ(資金還流)で、一時的な円高→再びドル高という振り子相場も。
総括:データが止まると“信認”が揺らぐ

5日以内なら市場は統計空白を「一過性のノイズ」と見なすが、15日を越えると政策当局・投資家双方が“手探りモード”へ。
30日級になると、統計操作や修正値リセットへの疑念が広がり、「経済のブラックアウト=政策信認低下」という深刻な段階に入ります。

米債券:リスク回避と利回り上昇のせめぎ合い

政府閉鎖は景気下押し”で利回り低下の論理がある一方、統計ブラインドでFRB不確実性が上がる → タームプレミアムが膨らむという利回り上振れの力も働く。短期は不確実性プレミアムで荒れやすく、中期は“閉鎖の期間”が決め手になりやすいと考えられます。

為替:ドル売り・円買いの安全資産フロー vs 金利差

悪いニュース=ドル安・円高”の反射が出ても、金利差の残存がドルの下値を支えると想定されます。ヘッドラインで振れて戻る往来が基本線は過去からの経験で判ると思います。

株式:アジア上昇・欧米横ばい

日本は政策期待のバリュエーション押し上げで相対的に底堅い一方、米欧は統計不在の企業ガイダンス依存で物色が寄りやすい。半導体・設備投資・防衛・エネルギー移行など明確な政策テーマに資金が回りやすい。

コモディティ:原油・金の方向感

  • 原油:需要面の鈍化観測と供給面ニュースが綱引き。
  • 実質金利の低下観測/政策不確実性で支え。“統計がない=不確実性高”の局面では相対的に買われやくなります。

■ 未来展望(“データ欠落 × 政変”の二重構造)

  • FRB臨時統計や代替データをより重視。「会合ごと」の判断は維持するが、利下げピッチは慎重化しやすい。11月会合では、データ復旧の速度が肝。
  • 日銀:市場安定と円滑な正常化の両にらみ。“言葉で寄せる”コミュニケーションの巧拙が為替ボラに直結しやすい。
  • 投資家視点地政学(安全保障)× 財政(政策実行)× 金融(統計ブランク)のトリプル・ヘッジが必要。情報空白を埋める代替データ・企業開示・高頻度指標の扱いが勝負を分けると思います。

タイムライン別シナリオ(Shutdown × Data復旧)

期間データ復旧金利株式の主役為替の癖一言メモ
短期(〜1週間)早い小幅ブル(前倒し利下げ観測)ディフェンシブ、クオリティヘッドラインで往来「拍子抜け反発」も
中期(1〜3週間)途切れ途切れタームプレミアム滲み上げで10年重めテック選別、設備投資テーマドルは下値固く、EMは選別“過剰反応→修正”の繰返し
長期(>3週間)大幅遅延相関+化で株債同時に荒れやすいディフェンシブ偏重、HY軟化安全資産強含み「統計が物語を遅らせる」局面

FRB

  • 会合ごと”+“代替データ増量”の姿勢は続くと思う。
  • SOFR/OISのストリップの“折れ目”(来期の据え置き/再開の境目)が前後に行き来。11月会合は「復旧した雇用・コアPCEのパッチ当て精度」が論点。
  • メッセージングは“粘り強いインフレの可能性”と“雇用のソフトランディング”の両にらみ

日銀・日本政府

  • ボラ抑制を最優先しつつ、**正常化の工程表(ガイダンス)**を曖昧にし過ぎない運営が肝。
  • 成長投資の見取り図(半導体・エネルギー・防衛・観光・DX)を数量的に可視化できると、株式の“物語”は長持ちしやすい。
  • JGBオペは、長期ゾーンの需給感インフレ期待の管理がコア課題。

投資家の“実務ウォッチリスト”

  • 金利・マネー:FF/OIS、SOFRストリップ、MOVETビルの期限別歪み、クロス通貨ベーシス。
  • 物価・需要の代替:カード決済データ、オンライン求人、モビリティ(TSA/ガソリン消費)、家賃高頻度。
  • クレジットIG/HY OAS、CLO新発、プライマリー“窓”の開閉。
  • 株式テクニカルCTAトリガー(200日・ブレイクアウト)オプションのガンマ位置自社株買いカレンダー
  • コモディティ:原油タイムスプレッド、金スキュー、銅の保税在庫。

リスク反対側(もし○○なら、××が起きやすい)

  • もし 政府閉鎖が早期解決ならフロント主導のブルフラット、株はリスクセンチメント改善でグロース選別再開
  • もし 統計復旧が遅れ11月も読みづらいならタームプレミアム上振れ株債相関+化ディフェンシブ・クオリティ優位が長引く。
  • もし 欧州政局やエネルギーにショックが出ればユーロ軟化・金高欧州HYのスプレッドが試されやすい。
  • もし 日本の成長投資が具体化(公募・補助・発注)すれば装置・素材・電力網・防衛実需相場に移行、指数寄りから個別物色へ。

■ 影響分析

  • 米国0.25%利下げ後の最初の統計ブランク。雇用の“鈍化⇄底堅さ”のどちらに寄るかで、12月〜Q1の政策パスが変わる。小刻み・データ連動が基本。
  • 日本積極投資×経済安保の政策が資本ストック増を通じて潜在成長率に寄与しうる。一方、JGBの長期ゾーンは発行増観測で上向き圧がかかりやすい(年金・生保需要/オペ運営がカウンター)。
  • 欧州コア安定・周縁脆弱の二層構造。ECBは現状維持バイアスも、ユーロ高なら“予備利下げ”カードを温存。クレジットはIG選好・HY選別
  • EM(新興国):ドルのタイトさが後退すれば資金回帰。ただし財政・外貨債のロール期・政治イベントに脆弱。

※詳細な日本・欧州・新興国セクター別解説

前提と仮説

  • 政策スタンスの仮説:危機対応投資(経済安保・サプライチェーン強靭化・先端技術育成・防衛)、規制・官民投資をテコにした成長志向。
  • 財政の姿勢:当面は機動的・拡張寄り(減税・補助・公的投資の組合せ)。
  • 金融政策との関係:日銀の独立性は尊重しつつ、メッセージ連携(ボラ抑制・為替安定)を重視。
  • 通商・経済安保:米欧との同盟・連携を軸に、中国依存の縮小・代替調達の多角化。

これを土台に、地域別に“データ→影響→含意”で見ます。


1. 日本経済への影響(内政・市場・セクター)

1-1. マクロ経路

  • 需要寄与(+):公的投資(防衛・半導体・エネルギー・インフラ)と家計支援(減税・補助)が内需を底上げしやすい。
  • 供給制約(±):人手不足・資材費・規制の壁を改革でどこまで崩せるかが潜在成長率を左右。
  • 物価経路(±):補助・規制でエネルギーや生活必需の上振れを抑えつつ、賃上げ継続でコアサービス物価は粘りやすい。
  • 金利・為替(±):拡張財政は長期金利の上振れ圧力。日銀が「緩やかな正常化+ボラ抑制」を維持できれば、為替は急伸・急落を避けたレンジ志向になりやすい。

1-2. 債券・クレジット・株式

  • JGB(国債)
    • 発行増観測→長期ゾーンに上向き圧力。ただし年金・生保需要、日銀のオペ運営でカーブ急峻化は段階的になりやすい。
  • クレジット
    • インフラ・成長投資の受け皿企業は調達環境が良化。中小・レバレッジの高い企業は金利上昇に脆弱。
  • 株式
    • プラス:半導体(設備・素材・製造装置)、防衛・宇宙、エネルギー安定化(電力設備・送配電・蓄電)、DX/サイバー、観光。
    • 中立〜マイナス:金利敏感(不動産一部・高配当ストーリーの見直し)、コスト高を価格転嫁しにくい内需ディフェンシブ。

1-3. セクター詳説(3〜12か月)

  • 半導体・先端素材:補助・官民ファンド・減税が「第二の投資波」を後押し。サプライチェーン内製化の受益。装置・素材・IP・設計支援まで裾野広い。
  • 防衛・宇宙:調達・研究の継続性が確保されやすく、川上(素材・電子)→川下(システム)まで長期テーマ化。
  • エネルギー転換:原子力の安全投資・再稼働、再エネ・蓄電・系統強化、LNG・アンモニア等の移行燃料。電力キャップEXの設計次第で収益性が左右。
  • 観光・サービス:ビザ・インフラ・為替安定でインバウンドの回復余地。地方分散投資が追い風。
  • 不動産・REIT:割引率は上振れ(逆風)だが、成長投資の波及(物流・データセンター・宿泊)で選別色。
  • 金融:長短スプレッドの形状と信用コストのバランスが鍵。外債評価の変動に要注意。

2. 米国への影響(対米関係・市場連動・通商)

2-1. 政策・安全保障アライメント

  • 経済安保の整合:対中輸出管理・先端半導体規制・重要鉱物サプライ網で、日米の政策整合が取りやすい。
  • 調達の補完:日本の対米投資(半導体・電池・自動車サプライ)拡大は、米国内のインフレ感応度を低くする方向に寄与しやすい。
  • 為替コミュニケーション:急激な通貨変動の抑制で対立を避けるレトリックが中心になりやすい。

2-2. 米市場への波及

  • 株式:日米の成長投資が共振すれば、日米テック・設備投資テーマの相関が再び強まる可能性。
  • 債券・金利:日本金利の上振れは“海外勢のJGB選好復帰”を促し、米長期金利の上値圧力を相対的に和らげる一面(ポート再配分)も。
  • コモディティ:エネルギー調達の多角化で原油・ガス市況のボラは小さくなる可能性だが、地政学ショック次第で相殺。

2-3. 通商・産業(米企業サイド)

  • 歓迎されやすい領域
    • 先端半導体の共同投資、レジリエンス強化(装置・EDA・IP・材料)。
    • 防衛・宇宙の共同開発(相互運用性・共同調達)。
  • 摩擦の火種
    • 自動車・EV規制・サプライ要件(北米原産要件)をめぐる協議。
    • 医療・プラットフォーム規制などでのスタンス差。

3. 欧州への影響(ECB・国債・クレジット・産業)

3-1. 政策・対EU関係

  • 価値連合の強化:経済安保・通商の分野で日EUの協調が進みやすい。重要鉱物・半導体・グリーン移行で相互補完が働く。
  • 通商懸案:EV関税・CBAM(炭素国境調整)など、産業政策間の調整は残る。日本のグリーン・原子力・水素方針次第で溝が縮小。

3-2. 市場(債券・クレジット)

  • 国債
    • コア国は“セーフ”継続、周縁は政策・政局でスプレッドが振れやすい“脆弱な安定”。
  • クレジット
    • ECBのQT下で自律吸収力が試される局面。IGは需給安定、HYは金利と成長のはざまで選別。
  • 為替
    • 円のボラ抑制とユーロの緩やかなレンジ推移がベース。ユーロ高が進み過ぎるとECBの“予備利下げ”観測がヘッジに。

3-3. 産業リンク

  • 半導体・装置・素材:日欧連携による供給多角化。日本の装置・材料企業は欧州の先端拠点投資の恩恵を受けやすい。
  • エネルギー・クリーンテック:原子力回帰・水素・アンモニア・送配電強化など、相互の実証・規格協調の余地。
  • 自動車:欧州のEV政策と日本の技術ポートフォリオ(ハイブリッド・電池・水素)が交錯。相互市場での規格・サプライ整合が焦点。

4. グローバル共通

4-1. サプライチェーン再編

  • 中国依存の逓減:半導体・医薬・電池・重要鉱物で“チャイナ+1/2/3”を日本が主導・参加。アセアン・インド・メキシコとの三角貿易の再設計
  • 在庫・物流再設計:戦略在庫の積み増し・国内回帰投資はコスト高だが、危機耐性の強化で信用プレミアムを下げやすい。

4-2. エネルギー・GX

  • 原子力+再エネ+蓄電+移行燃料の“ミックス最適化”へ。移行コストは中期的にCPIの粘着要因だが、価格変動幅は政策協調で抑制しやすい。
  • 金属・素材チェーン:銅・ニッケル・レアアースの確保と環境規制の整合が企業収益を左右。

4-3. テク・安全保障

  • 半導体・AI・量子・サイバー:輸出管理・投資審査(FDI)の厳格化で、地政学プレミアムが残存。R&D補助・人材流動性が勝敗を分ける。

5. 時間軸シナリオ

0〜3か月

  • 政策コミュニケーション重視:財政の基本方針、重点投資リスト、為替・物価のメッセージ。
  • 市場:JGBは長期に上値圧力、株式は“政策関連”に物色。為替はボラ抑制の協調を意識。
  • チェック指標:補正予算の規模・内訳、日銀会見のトーン、対米欧共同声明。

3〜12か月

  • 法制度・予算の実装:補助・減税スキーム、官民ファンドの枠組み。
  • 産業:半導体・防衛・エネルギーの入札・投資計画が可視化。
  • 市場:成長投資関連の実需で設備・素材・ITに連鎖。REITは金利と稼働率のクロスを見極め。

12〜24か月

  • 実体経済:潜在成長率・生産性の改善度合い、賃上げ・価格転嫁の持続。
  • 物価:コアサービスの粘着と安定のバランス。
  • 財政・信認:債務持続性の評価、格付けレビュー、国債投資家層の広がり。

6. 主なリスク/オルタナティブ

  • 財政規律の劣化:減税+補助+大型投資が重なり、債務コストが上振れするリスク。
  • 政策実行の遅れ:規制緩和・労働市場・入管・税制の“痛みを伴う”改革が進まない場合、潜在成長率の引き上げが限定。
  • 外部ショック:米国政府閉鎖・統計ブランク・選挙、欧州政局、エネルギー・地政学ショック。
  • 対中関係の揺れ:経済安保の厳格化で報復・非関税障壁が強まるケース。

7. まとめ(エグゼクティブ・サマリー)

  • 日本:積極投資と経済安保を軸に“成長ストーリー”を再点火できる可能性。金利の上振れ圧力はあるが、オペ運営と年金・生保の需要で急性のボラは抑制されやすい。勝ち筋は半導体・防衛・エネルギー・インフラ・DX
  • 米国:日米の政策整合でサプライ強靭化が進めば、米インフレ粘着の鎮静化に寄与し、FRBの“小刻み緩和”と両立しやすい。自動車・EV・規格の火種は残る。
  • 欧州:日EUの補完関係が強まり、半導体・エネルギー・グリーン移行で協調余地。市場は“コア安定・周縁脆弱”の二層。クレジットはIG選好、HY選別。
  • 総論:高市内閣が「機動的財政×規制・投資改革×経済安保」を実行できれば、“日本の成長再起動”という物語が国際市場に共有されやすい。一方で、財政・実行力・外部ショックの3点が常に試される…と思う。

四角 まとめ・GP君コメント

データが止まり、政治が動いた週」として記憶される可能性があります。

  • FRB:利下げ開始後の初の統計ブランクで、データ依存の精度が試される。
  • 日本:高市新政権で成長投資の物語が再点火するか。金利・財政・為替の三すくみをどう捌くかが鍵。
  • 市場:統計が出ないほど、“語る力”のある企業・政策テーマが相対優位になりやすい。

GP君の一言

情報の空白はノイズの温床になりがちです。だからこそ、一次データが停まった時ほど「代替データの質」と「政策コミュニケーション」が価格を動かす、と僕は思う。今週は“統計よりも、言葉と構造”を読む週かもしれない。


出典

  • U.S. Bureau of Labor Statistics「Suspension of Federal Government Services」(2025/10/1 掲載停止告知)
  • Reuters「US government shutdown would halt September jobs report, other data」(2025/9/29)
  • Reuters「With the US government dark, alternate sources show a sluggish September for jobs」(2025/10/2)/「For a jobs day data fix in a US shutdown, here is what the experts are saying」(2025/10/3)
  • Reuters「Payroll data on ice gives Wall Street…」(2025/10/3)
  • JPMorgan Research「US Government Shutdown: What’s the Impact?」(2025/10/3)/「Shutdowns and Market Highs: Top 3 Questions」(2025/10/4)
  • LPL Research「Eight things to know about government shutdowns」(2025/9/30 更新)
  • FHLB New York「MSD Weekly Market Update: Week Ending Oct 3, 2025」(2025/10/3)
  • Reuters「Right-wing Sanae Takaichi set to be Japan’s first female premier」(2025/10/4)/「View: Japan ruling party picks Sanae Takaichi as new leader」(2025/10/4)
  • AP News「Japan’s ruling party elects Sanae Takaichi as new leader…」(2025/10/4)
  • Reuters「Takaichi proposes crisis-management spending」(2025/10/2)/「Takaichi vows fiscal expansion…」(2025/9/19)
  • Reuters「Inspired by Thatcher, Japan’s PM-in-waiting Takaichi…」(2025/10/4)
  • Reuters「How a US government shutdown could affect financial markets(Explainer)」(2025/9/25)
  • Equitable Growth「The status of U.S. labor market data amid the government shutdown」(2025/10/3)

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※本分析はニュース解釈であり、特定の投資行動を推奨・勧誘するものではありません。将来の結果を保証するものではなく、内容は変更される可能性があります。

プロフィール
fukachin

運営者:ふかや のぶゆき(ふかちん)|
1972年生まれ、東京在住。
ライター歴20年以上/経済記事6年。投資歴30年以上の経験を基に、FRB・地政学・影響分析・米中経済を解説。詳しくは「fukachin」をクリック

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