──雇用統計の演出、植田戦略の静観、そして仕掛けられた円安ゾーン
最終更新日:2025年9月17日
■ はじめに
2025年7月末、FOMCに続き、日銀の政策決定会合が終了しました。
両会合を受けた市場は軟調。ドル円は再び150円台に突入しました。
新聞やテレビでは「円安進行!」と一斉に報じられましたが、実際のマーケット関係者は誰も驚いていません。日本政府も、日銀も、FRBも──止める気配をまったく見せなかったのです。
それはなぜか?
背景には「動かない日銀」「もがき苦しむFRB」「演出された統計」、そして「誘導される市場」が存在します。
今回の記事では、単なる「表の数字」ではなく、「構造と意図」から見えてくる真相を裏読みしていきます。
■ FOMC 7月会合──パウエルの“意地”と“焦り”
7月末のFOMCは、政策金利を5.25〜5.50%で据え置きで決定しました。
又、声明文では「年内の利下げはデータ次第」とする慎重姿勢を維持しました。
しかし会見に臨んだパウエル議長はこうも述べました。
「インフレは明確に鈍化しているが、すぐに利下げするとは限らない」
これはやや強がりにも聞こえるタカ派な発言が目立ちました。
しかし、実際には市場はすでに「利下げが近い」と見ており、株価は堅調、金利は低下、ゴールドは上昇基調でした。
つまり、市場の雰囲気はFRBの公式姿勢より一歩先に「利下げモード」に入りつつあった…というのが市場関係者の見方だったのです。
🗣️ GP君:「パウエルさん、声がちょっと上ずってなかった?」
🧠 ふかちん:「“粘ってる感”が強かったね。自分が“防波堤”であることは理解しているし、慎重姿勢を見せながらも、苦しい立場にあるよ」
③ 日銀──インフレ“鈍化”でも動かないワケ
日銀は政策金利を+0.1%で据え置き。声明文も大きな変更なし。
一見「無風」に見えましたが、市場はむしろ「動かない」姿勢の中に市場は植田総裁の戦略を感じ取っていました。
植田総裁は学者出身でありながら、実体経済を重視する人物です。
「利上げに踏み切れない」のではなく、「今はあえて動かさない」と判断した可能性が高いのです。
- 実質賃金:23か月連続マイナス
- 消費:弱含み
- 中小企業:利払いに耐えられない
- 地方経済:地域差が大きい
つまり、インフレ率だけを見て金利を動かすと、日本経済を壊しかねません。
そこで植田総裁は、インフレ率の目標を「2.0% → 2.4%」へと実質的に引き上げました。
数値だけみると日銀目標に近くなっている。だがしかし、これで金利を上げてしまうと実体経済が再度冷え込む可能性が高い。だから、金利を据え置く“理論的余地”を確保したわけだ。
これにより「目標に近い」と説明しつつ、利上げを避ける余地を作り出しました。
これはまさに「経済を壊さずに政策の選択肢を広げる」植田先生らしい一手(植田先生さすがです!)
GP君:「円安でも平然としてるのって…実は“計算ずく”ってこと?」
ふかちん:「うん。植田先生は“動かない”んじゃなくて、“今は動かさない”ってだけなんだよ」(ふかちんは植田先生と呼んでいます。気にせんで下さい(笑)
■ 為替介入の歴史──150円は「容認ライン」か?
ここで歴史を振り返ります。
- 2022年秋:1ドル=151円台で、日銀・財務省が大規模介入を実施。
- 2023年春:160円近辺まで円安が進み、複数回の断続介入。
- 2024年:一時は168円台まで到達、NY時間に「1分1億ドル超」の超高速介入。
その後の市場では、 「150円前半は容認ライン」 という認識が根付きました。
輸出企業には有利、輸入企業も致命傷ではなく、インフレ率も2%台に抑えられる──バランスの良い水準だからです。
つまり、今回の150円台は「驚き」ではなく「静かな合意」
結果的に、それが市場の落ち着きを生んでいたのです。
■ 景気指標とゴールドの動きから逆読み
ゴールド価格はじわじわと上昇しています。
これはFRBの利下げ期待や地政学リスクだけでは説明できません。
背景には「新興国の通貨防衛」があります。
- 中国:人民元の信認維持のため、金備蓄を積み増し
- トルコ:リラ安対策として金買いを強化
特にこの2か国は2024年秋ごろから購入残高が急増。
これは「ドル依存からの脱却」を目指す流れの一環です。
一方で日本の金購入は短期投資的。
構造的備蓄ではなく、投資マインドが色濃い点に違いがあります。
ゴールドの動きからも「新興国通貨不信」という構造変化が読み取れるのです。
■ 雇用統計の演出──数字は“物語”を語る
7月発表の雇用統計のNFP(非農業部門雇用者数)は+7.3万人。
一見すると「堅調」ですが、蓋を開けたら過去2か月分は大幅下方修正。
- 5月:+144,000 → +19,000(▲125,000人/2025年8月)
- 6月:+147,000 → +14,000(▲133,000人/2025年8月)→ ▲16,000(▲30,000/2025年9月)
合計で▲25.8万人の下方修正です(2025年9月再補正 ▲28.8万人の下方修正)
見た目は“強い”雇用、だが中身は…これは「帳尻合わせ」的であり、速報値で市場を誘導する意図が透けて見えます。
その結果、会合後に利下げ期待は再び膨らみました。
しかしドル円は逆に上昇──。
自然な反応というより「仕掛けられた動き」と考える方が合理的でしょう。
裏にあったのは「演出型統計」ではないか?とみています。速報値による市場誘導の意図が見えます。
そこに乗る形で、市場はFOMC会合後の利下げ保留、期待値コイントス(50%-50%)から、又「利下げ近し」と反応が変化。
だが、ドル円は逆に上昇した。これは自然な動きではなく、“仕掛けられた動き”とみる事はできないでしょうか。
その裏にあったのは──
- FRB:利下げを否定しない数値が修正値で出た期待
- 日銀:インフレ目標引き上げによる据え置きの正当化
- 政府:介入はしばらくない
👉 つまり、「通常運転で150円」
👉 これは“指標と政策に引っ張られた誘導された円安水準”と言えるのでは
GP君:「演出された雇用、戦略的据え置き、そして黙認された為替…ってことは──」
ふかちん:「そう、“混乱するFRB”に巻き込まれないための“選ばれた静けさ”だよ」
2025年8月3日追記:
関連記事:
雇用統計の速報値と修正値の乖離──それが単なる「データのズレ」では済まされなくなったのが、2025年8月。
トランプ大統領(第二次トランプ政権)は、雇用統計で新規雇用増加数+73,000人、5月6月の2か月合わせて-25.8万人の下方修正が判明した直後、労働統計局長を即座に解任。
「データの信頼性とは何か?」「誰が“数字”を使い、誰が“政治”を動かすのか?」
【新規記事】
👉 速報値を巡る“統計の攻防”──トランプ氏が労働統計
■ FRBと日銀──「独立性」と「静観」の違い
ここで両者を対比してみましょう。
- FRB:政権からの圧力に耐え、独立性を守るため「粘る」姿勢。
- 日銀:政治に直接口を出させず、「動かない戦略」で静観。
どちらも「守る」ための戦術ですが、FRBは「議会・政権と戦う防波堤」、日銀は「時間を稼ぐ忍耐型」。
性質は違っても、目指すのは同じ──経済の安定です。
⑨ 日米が狙う為替水準──静かなせめぎ合い
日銀の成長戦略としての「140〜150円」ゾーン
日銀の政策運営は「物価2%目標」にばかり注目が集まりがちですが、実際には 経済成長率2%前後を安定的に維持することこそが“長期戦略の核” です。
そのため、輸出入の収支が最も安定し、日本企業と家計がともに耐えられる水準として、 1ドル=140〜150円 を“暗黙の成長戦略ゾーン”として意識していると考えられます。
- 140円台前半:輸入コストが抑えられ、消費者物価の負担が軽くなる
- 150円前後:輸出企業の利益が押し上げられ、国内雇用や投資に還元される
このレンジを維持することで、「物価」「企業収益」「実質賃金」の三角バランスが整い、成長率2%を支える基盤が出来上がります。
つまり150円という水準は「放置」ではなく、日本経済の長期戦略の核を守るための“静かに選ばれたゾーン” なのです。
米国・ベッセント財務長官の発言
一方の米国は、明確に異なるシナリオを描いています。
ベッセント財務長官はこう発言しました。
「第二次トランプ政権でトランプ大統領が就任して以来、就任時より円安になったことがない」
これは裏を返せば、 米国はドル高・円安を歓迎する立場 を示唆しています。
実際に米国が望む水準は 154円以上の円安。
- 日本企業の競争力を削ぎ、米国製品を有利に売り込む
- 農産物やエネルギー輸出を拡大し、国内雇用を確保する
- ドル高を背景に、米国の金融市場への資本流入を促す
この構図は、日銀が「150円で止めたい」のに対し、米国は「154円以上を狙う」という真逆の立場を明らかにしています。
為替は「国益モデル」の衝突点
- 日本:実体経済を守り、成長率2%を維持するための“安定ゾーン”
- 米国:ドル高を通じた国益確保と雇用重視
- 市場:双方のせめぎ合いを利用し、投機資金が一気に流れ込む
150円という為替水準は、単なる数字ではなく、 日米それぞれの国益モデルと長期戦略の核がぶつかる境界線 なのです。
🗣️ GP君:「なるほど…150円を守りたい日銀と、154円以上を狙うアメリカの綱引きなんだ!」
🧠 ふかちん:「そう。だから“150円”は偶然の数字じゃなく、日米の腹の内が静かに交錯する“選ばれた水準”なんだよ」
⑧ GP君のツッコミ&まとめ
表面的には「穏やかな金融政策と150円の為替」。
だが、その裏には「演出された雇用統計」「戦略的据え置き」「容認された円安ゾーン」が潜んでいます。
🗣️ GP君:「ってことは…150円って“誰かが仕掛けた数字”じゃなくて──」
🧠 ふかちん:「“誰も止めようとしない水準”ってことだよ」
🗣️ GP君:「雇用統計は作文、日銀は静観、FRBは必死に粘る…」
🧠 ふかちん:「そう、“混乱するFRB”に巻き込まれないための“選ばれた静けさ”だね」
📝 追記:その後の展開(2025年8月3日以降)
雇用統計修正を受け、トランプ大統領(第二次政権)は労働統計局長を即座に解任しました。
「数字の信頼性が揺らぐことは国家の危機だ」
と声明。
「速報値を巡る統計の攻防」は、政治と市場の新たな火種となっています。
出典先
本記事の分析・リライトにあたり、以下の主要英字メディアを参考にしました。
- ロイター(Reuters)
FOMC声明文・パウエル議長会見・雇用統計速報/修正値報道に基づく分析
(例:“Fed holds rates steady, Powell says September cut not assured” / July 31, 2025) - ブルームバーグ(Bloomberg)
米国市場の反応(株式・債券・為替)およびFedWatchツール関連の報道
(例:“Dollar Climbs as Fed Signals Patience; Markets Trim Rate-Cut Bets” / July 30, 2025) - ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)
FRB理事の dissent(反対票)の歴史的意義や議会・政権との関係性に関する解説記事
(例:“Fed Officials Split as Debate Over Timing of Cuts Intensifies” / July 31, 2025) - フィナンシャル・タイムズ(FT)
日銀政策決定会合に関する欧州的視点からの分析、日本円の為替水準をめぐる地政学的含意
(例:“Bank of Japan stands pat as yen hovers near 150 per dollar” / August 1, 2025)