初心者でもわかる!コモディティ入門①

入門シリーズ

〜原油と金から学ぶ、ニュースの裏の仕組み〜

カテゴリ:入門シリーズ| 最終更新日 2025年9月7日(JST)加筆

はじめに

昨今、「原油が高止まり」「金が最高値!持っている金を売りませんか?」といった話題を耳にする機会が増えました。これって、いったい何なのでしょう? どうやって、誰が、どこで価格を決めているのか──意外と知られていない基本の仕組みを、やさしく解説します。では、真のコモディティを学んでいきましょう。


コモディティって何?

「コモディティ(Commodity)」は直訳すると“商品”。ここでいう商品はスーパーの日用品ではなく、国際的に大量取引される原材料や資源を指します。

  • エネルギー: 原油、天然ガス、石炭
  • 貴金属・産業金属: 金、銀、銅、アルミ
  • 農産物: 小麦、トウモロコシ、大豆、コーヒー、綿

これらは国際市場で価格が決まり、世界中どこで買ってもほぼ同じ品質・規格で取引されます。
「この国の小麦は他よりおいしい」なんて基準はなく、規格化された“同じモノ”として売買されるんです。
この「品質の均一化(規格化)」こそがコモディティの大きな特徴で、例えば原油なら硫黄分や比重でグレードが決まり、金なら純度99.99%といった基準が世界共通です。
こうした規格があるから、産地が違っても国際市場で同じ基準・同じ価格帯で取引できるのです。

株や通貨との違い

  • 株式: 企業の価値や業績で変動
  • 通貨(FX): 国の経済力や金利差で変動
  • コモディティ: 需給政治・地政学金融環境大口の思惑で動く

つまり、コモディティは実物資産でありながら、金融市場の動きにも敏感に反応する二面性を持っています。

GP君:「スーパーの“商品”と違って、値段を動かすのはOPECとか金融市場なんだね」
ふかちん:「そう。実物そのものだけじゃなく、裏の力学が大きいんだ」


原油の力学(WTI vs OPEC)

「原油価格はOPECが決めてるんでしょ?」──よくある誤解です。確かにOPECは供給量を調整して価格に影響しますが、実際の指標価格は先物市場(取引所)で形成されます。

代表的なベンチマーク

  • WTI: 米国産。NYMEXで取引。
  • Brent: 北海産。ICEで取引。
  • Dubai: 中東産。アジア向け指標。

この中でも世界のニュースでよく出るのはWTIとBrent。
日本は中東産原油を多く輸入するためDubai価格も重要ですが、国際的にはWTIとBrentが基準となっています。

「WTI」とは、West Texas Intermediateの略称で、アメリカの代表的な原油です。
ニューヨークマーカンタイル取引所でWTIの先物取引が行われており、 「原油価格の代表的な指標」 となっています。

国際原油価格については、米国のNYMEX(ナイメックス)で取引されているWTI原油先物、欧州のICEで取引されているブレント原油先物、そして中東(ドバイ)原油の三つが国際指標になっています。

価格は“先物”で決まる

実際の取引は、現物ではなく先物契約が中心。
「1か月後に原油を○ドルで売る・買う」という約束を取引し、その価格がニュースで報じられる“原油価格”です。この先物価格は、上記にも書きましたがNYMEXなどの取引所でリアルタイムに動きます。

実需の現物取引もありますが、ニュースの「原油価格」は基本的に先物の清算値。
日本のようにタンカー輸入が中心の国では、先物の変動が実際の仕入れコストに反映されるまで4〜6か月のラグが生じます。それでもガソリン小売価格がほぼリアルタイムで動くのは、企業が将来の仕入れコストを先読みして価格設定しているためです。
つまり、タイムラグがないのは企業努力の結果なのです。

原油価格を動かす3要因

  • 供給: OPEC+の増減産、米シェール、制裁・戦争
  • 需要: 世界成長、中国の輸入、季節要因
  • 金融: ファンドの資金フロー、ドル相場、金利

学校では教えてくれない「原油価格」の本当の仕組み

日本の学校や教科書では、「原油価格=OPECが決める」という形で教わることが多いです。
確かにOPEC(石油輸出国機構)は世界の原油供給量を大きく左右しますが、
実際に価格をその場で決めているのは先物市場(NYMEXなど)です。

つまり、OPECは“供給側の重要プレイヤー”であっても、
価格の最終決定権は市場と金融筋の思惑にあるのです。

ニュースで「OPECが減産発表=原油価格上昇」と言われても、
米国の在庫統計や為替変動など、別の要因で価格が下がることも珍しくありません。
この構造を理解すると、ニュースをそのまま鵜呑みにせず、背景まで読めるようになります。

裏読みポイント

OPECが「減産します」と発表しても、価格が必ず上がるわけではありません。
米国の週間原油在庫統計が予想以上に増えれば、「需要が弱い」と判断されて価格は下がることもあります。
短期的には、政治的な声明よりも在庫や金融市場の動きの方が即効性が高いのです。

📝 補足:裏読みポイント

「OPECが減産=必ず上昇」ではありません。米国の週間在庫が大幅増なら「需要弱い」と解釈されて下がることも。短期は在庫や為替が効きやすいのがコツ。

GP君:「やっぱり市場の反応が最終的に“価格”を決めるんだね」
ふかちん:「そう。ニュースの見出しだけで結論を急がないのが上達の近道」


金の力学(通貨との相関・反相関)

金(ゴールド)は「安全資産」の代表。とはいえ、値動きは単純ではありません。

1. 資産としての金

金は配当や利息を生みませんが、無価値になりにくい特性があります。戦争・金融不安・通貨不信が強まると、マネーが金へ避難します。一般に金はドル指数と逆相関(ドル安=金高)になりやすいと言われます。

2. 産業素材としての金

金は高い導電性と耐腐食性を持ち、半導体や電子部品にも使われます。スマホや航空宇宙機器にも微量ながら不可欠で、テック需要も価格の下支えになります。

金価格の主要ドライバー

  • ドル相場(逆相関が基本)
  • 米金利(高金利=金安、低金利=金高の傾向)
  • 中央銀行の買い入れ・売却
  • 投資ファンドの資金流入出
  • 工業需要の増減

ロンドン市場のロンフィク
具体的には、ロンドン貴金属市場協会が、午前・午後に金取引価格を決定する事を指します。
金は主にドル建てで取引される事から、外国為替相場にも影響が有ります。 この為、ロンドン時間の午後に、金融機関が対顧客取引の基準とする為替レートが発表されます。
短縮して「ロンフィク」
ちょっとカッコイイですね。

GP君:「金って資産と産業の“二刀流”なんだ!」
ふかちん:「その二面性が、ニュースの一歩先を読むヒントになる」


歴史的エピソードから学ぶ

  • 1971年 ニクソン・ショック: ドルと金の交換停止で金本位制が崩壊。金は「無国籍の価値保存資産」として独立した値動きへ。
  • 1973年 第一次オイルショック: OPECが公示価格を一気に引き上げ、日本では狂乱物価と呼ばれる物価高騰、トイレットペーパー買い占めなど生活不安が社会現象化。

生活者の実感編(原油・金は家計にどう響く?)

原油=ガソリン代・光熱費

原油高は数か月遅れで電気・ガス料金に転嫁され、ガソリン価格はより短期で反映されます。例えば1Lあたり20円の上昇でも、月50L給油なら+1,000円。電気・ガスと合わせると、月数千円規模の負担増になることも珍しくありません。

金=ジュエリー価格・買い取り相場

金価格が上昇すると、指輪やネックレスの店頭価格だけでなく、買取価格も引き上がる傾向に。インフレや通貨安への不安が強い局面では「資産の一部を現物で持ちたい」という心理が働き、宝飾需要が相場の下支えになる場合があります。


国際比較の視点

原油高の受け止め方:日本/米国/欧州

  • 日本: エネルギー輸入依存が高く、円安が重なると負担が増幅。家計・企業コストに広く波及。
  • 米国: 産油国でもあるため、原油高はエネルギー企業の追い風になる一方、ガソリン高は消費を冷やしやすい。
  • 欧州: 天然ガス依存や炭素政策の影響が大きく、原油・ガス価格の高止まりは産業競争力や電力料金に直撃。

金の中央銀行買い:各国の違い

近年は一部の新興国・資源国(例:中国・ロシアなど)が外貨準備の一部を金で厚めに持つ動きが目立ちます。通貨や制裁リスクへの備えとして、自国通貨や特定外貨への依存度を下げたい思惑が背景です。一方、日本は外貨準備で米国債など安全資産中心の構成が続き、金保有比率は大きく動かしていません(長期安定運用の考え方)。


コモディティ力学の公式

ここでは便宜的に、この仕組みを「コモディティ力学」と呼びます。
正式な学問用語ではありませんが、需給・政治・金融・思惑といった複数の要素が絡み合う力学的な関係をイメージしやすくするための表現です。

コモディティ価格は、「需要と供給」だけで動くと思われがちですが、
実際にはもっと多くの要素が複雑に絡み合っています。

ふかちん&GP君がシンプルにまとめると、この公式になります👇

価格 = 需給バランス × 政治・地政学 × 金融環境 × 大口の思惑

  • 需給: 生産・消費・在庫
  • 政治・地政学: 戦争、制裁、OPECの増減産、産油国の政策、軍事バランス
  • 金融環境: 金利、為替、資金フロー
  • 大口の思惑: 産油国、中央銀行、巨大ファンドの戦略

📝 メモ

「ドル安は原油・金にプラス」「利上げは金にマイナス」などの経験則はありますが、在庫・地政学・資金フローがぶつかると相場は教科書通りに動きません。複合的に見るのがコツ。


まとめ

今回は、「原油価格が下げた」「金価格が最高値を更新」という二つのニュースをきっかけに、
意外と理解しづらいコモディティ
という分野を解説してみました。

初心者の多くは、原油は原油、金は金、通貨は通貨──と別々に価格が決まると考えがちです。
しかし実際には、これらは為替や金利、政治、地政学まで絡み合った一つの大きな歯車として動いています。
この“つながり”を知るだけで、ニュースの背景が一気に立体的に見えてくるはずです。

  • 原油は先物市場で価格形成。短期は在庫・ドル・ファンドの資金が効きやすい。
  • 金は「安全資産」と「産業素材」の二面性。ドル・金利・中央銀行の買いが主要ドライバー。
  • 家計目線では、原油=ガソリン・光熱、金=ジュエリー・買取相場に直結。
  • 国際比較の視点を持つと、同じニュースの意味合いが国や地域で変わることが分かる。

GP君:「ニュースを“点”じゃなく“線”でつなぐと、裏側が見えてくるね」
ふかちん:「そう。それが“初心者でもわかる!”シリーズの狙いだよ」


出典・参考資料

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プロフィール
fukachin

運営者:ふかや のぶゆき(ふかちん)|
1972年生まれ、東京在住。
ライター歴20年以上/経済記事6年。投資歴30年以上の経験を基に、FRB・地政学・影響分析・米中経済を解説。詳しくは「fukachin」をクリック

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